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津地方裁判所四日市支部 昭和59年(ワ)11号 判決

原告 森弘子外五二名

被告 株式会社四日市カンツリー倶楽部

主文

一  別紙(一)賃金債権一覧表番号1、3、8ないし53の原告らが被告の従業員たる地位を有することを確認する。

二  被告は、

1  別紙(一)賃金債権一覧表番号1、8ないし53の原告らに対し、それぞれ、別紙(二)一時金計算表「夏期」欄及び「年末(2)」欄に各記載の金員とこれに対する昭和五九年一二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員、別紙(一)賃金債権一覧表G欄に各記載の金員、昭和五九年二月以降毎月二八日限り別紙(一)賃金債権一覧表F欄に各記載の金員並びに金一〇万円

2  原告野呂テル子に対し、金三五万五、六四三円と内金二五万五、六四三円に対する昭和五九年一二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員

3  原告市川清子に対し、金五〇万一、八八〇円

4  原告曽我きく子に対し、金一四一万七、七六九円と内金一一万九、六四〇円に対する昭和五九年一二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員

5  原告大橋清子に対し、金一九一万三、五八〇円と内金一二万五、六四〇円に対する昭和五九年一二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員

6  原告市川孝子に対し、金一八一万七、〇三〇円と内金一二万八、六四〇円に対する昭和五九年一二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員

7  原告平田すみゑに対し、金一九五万九、〇九六円と内金一二万八、六四〇円に対する昭和五九年一二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員

を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを一二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一  原告らが被告の従業員たる地位を有することを確認する。

二  被告は原告らに対し、それぞれ、別紙(二)一時金計算表「夏期」及び「年末」欄各記載の金員とこれに対する昭和五九年一二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員、別紙(一)賃金債権一覧表G欄に各記載の金員、昭和五九年二月以降毎月二八日限り同表F欄各記載の金員並びに金三〇万円を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  仮執行宣言。

(請求の趣旨に対する答弁)

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  被告は肩書地においてゴルフ場を経営する従業員数約一〇〇名の株式会社であり、原告らは別紙(三)入社年月日目録記載の日に被告に入社し、キヤデイー業務に従事してきた。

二  被告は、昭和五八年一一月二九日付文書で原告らを含むキヤデイー従業員全員に対し、キヤデイー制度廃止を理由として、同年一二月三〇日限り解雇する旨の意思表示(以下「本件整理解雇」という)をした。

そこで原告らは、同月二八日付で本件整理解雇の効力を停止する旨の仮処分決定(当庁昭和五八年(ヨ)第一二〇号解雇禁止仮処分申請事件)を得たが、被告は、その後もキヤデイー制度の廃止は役員会で決定されたとの理由で、原告らに自宅待機を命じ、その就労を拒否している。

三  しかしながら、本件整理解雇は、抗弁一に対する認否・反論及び再抗弁で述べるとおり、被告が主張する就業規則中の解雇事由に該当しないし、然らずとしても解雇権の濫用又は不当労働行為として違法無効であるから、原告らは民法五三六条二項に基づき、以下のとおり、昭和五八年一二月三一日以降の賃金全額及び一時金の支払請求権を有する。

1 賃金

(一) 被告の賃金支払期日は毎月二八日で、前月二一日から当月二〇日までの一か月分が支払われる。

(二) 原告ら(但し、原告野呂テル子を除く)が被告から支払を受けた昭和五八年一〇月分、一一月分、一二月分の賃金はそれぞれ別紙(一)賃金債権一覧表A、B、C欄に各記載のとおりであり、右三か月分の平均賃金は同表F欄に各記載のとおりである(但し、同表番号23ないし37の原告らは、次項の一時金欄で述べるとおり、昭和五六年一〇月一六日をもつて定年が五五歳に延長されたにかかわらず、四七歳の定年を経過したとして昭和五八年一〇月二一日以降故なくラウンド給を一ラウンド一バツグ当り一〇〇円切り下げされたため、右切り下げ分の賃金額が未払となつているので、その未払分――その金額は、同表D欄に各記載のとおり――を加算して算出している。)。

(三) 従つて原告ら(但し、原告野呂テル子を除く)が支払を求め得る昭和五九年一月分の賃金(昭和五八年一二月三一日から昭和五九年一月二〇日まで)は別紙(一)賃金債権一覧表G欄のとおりであり、昭和五九年二月分以降の賃金額は同表F欄のとおりである。

2 一時金

(一) 被告は、原告らキヤデイーを除く被告従業員に対し、昭和五九年一〇月一二日夏期一時金として基本給の一・五か月分を、同年一二月二一日年末一時金として基本給の一・六か月分を、それぞれ支給した。

(二) 正キヤデイーの昭和五八年度の夏期一時金、年末一時金の支給額は一般職員比七五パーセントであり、臨時キヤデイーの同支給額は正キヤデイーの七五パーセントであつた。

(三) 正キヤデイーとは定年に達していないキヤデイーであるが、昭和五六年一〇月一六日をもつて定年が満四七歳から満五五歳に延長されており、別紙(二)一時金計算表番号23ないし53の原告らが正キヤデイーに該当する。

原告らが定年が満五五歳に延長されたと主張する根拠は次のとおりである。

昭和五六年一〇月一六日、原告らの所属する労働組合と当時の被告会社代表取締役宗村との間に定年を満五五歳に延長する旨の口頭による労働協約が締結され、右協約後満四七歳を迎えた同目録番号23ないし37の原告らは退職金の支払を受けることもなく正キヤデイーとして就労してきた。

仮に右口頭による協約に労働協約としての効力が認められないとしても、原告らと被告との間には、定年を満五五歳に延長する旨の合意が成立したものである。即ち、原告らは組合分会長森弘子他の組合執行委員に定年を六〇歳に延長する旨の協議、決定権限を授与し、授権を受けた森弘子らは、昭和五六年一〇月一六日、被告会社代表者宗村と、定年五五歳延長の契約を締結した(明示の合意)。あるいは、同目録番号23ないし37の原告らが、正キヤデイーの労働条件で満四七歳以降も就労してきたことは、被告が、昭和五六年一〇月一六日以降将来満四七歳に達する労働者に対し、定年を満五五歳まで延長する旨あらかじめ一般的に黙示の意思表示をし、この申し込みに対し、右原告らは、承諾を与えたと解することができる(黙示の合意)。然らずとしても昭和五六年一〇月一六日以降定年を満五五歳とする労働慣行が成立していたものである。

一方、臨時キヤデイーは定年後再雇傭されたキヤデイーであり、同目録番号1ないし22の原告らがこれに該当する。

(四) 一時金の計算方法

キヤデイーの一時金は、別紙(二)一時金計算表記載の「一時金頭割分」と「一時金勤続年数分」を合計した額である。「一時金頭割分」とは、キヤデイーが勤続年数にかかわりなく支給される分であり「一時金勤続年数分」とは、勤続年数に応じて支給される分である。

(1) 正キヤデイーの計算方法

まず、正キヤデイー全員の支給総額を決定する。それは次の算式による。

基本給×妥結月数×〇・七五×正キヤデイー数=総支給額

基本給     一五万〇、二〇〇円

妥結月数    夏期一時金一・五 年末一時金一・六

正キヤデイー数 三一名

よつて、その総支給額は、夏期一時金金五二三万八、二二五円、年末一時金金五五八万七、四四〇円となる。

次に、「一時金勤続年数分」を算出する。一年当り二、〇〇〇円とすることが、原告ら所属の組合と被告との間で合意されている。

原告らの勤続年数は、別紙(二)一時金計算表「勤続年数」欄記載のとおりであり、一年当り二、〇〇〇円で計算したのが、同表「一時金勤続年数分」欄記載の額である。

最後に、「一時金頭割分」を算出することになる。それは、総支給額より、正キヤデイー全員の勤続年数分総額を差し引いた額を正キヤデイー数(三一)で除して算出する。

よつて、算式は次のとおりである。

(総支給額-勤続年数分総額)÷正キヤデイー数=一時金頭割分

右算式によつて算出したのが、別紙(二)一時金計算表「一時金頭割分」欄記載の額である。

(2) 臨時キヤデイーの計算方法

臨時キヤデイーの一時金計算方法は、支給割合が、正キヤデイーの七五パーセントであるため、総支給額の算出方法が正キヤデイーの算出方法と異なるのみで、その余は同一である。総支給額は左の算式で算出される。

基本給×妥結月数×〇・七五×〇・七五×臨時キヤデイー数=総支給額

基本給      一五万〇、二〇〇円(正キヤデイーと同一)

妥結月数     正キヤデイーと同一

臨時キヤデイー数 二二名

(3) 前述の計算方法により算出された、臨時キヤデイー・正キヤデイーの昭和五九年度夏期・年末一時金の額は、別紙(二)一時金計算表「夏期」欄、「年末」欄記載のとおりである。

四  本件整理解雇が違法無効なことは前述のとおりであるところ、本件整理解雇は被告の故意又は過失によりなされたものである。

原告らは本件整理解雇により、日々精神的不安を感じて生活しており、その精神的苦痛は本訴が認容されたとしても償われないものがあり、その慰藉料額は、原告らそれぞれにつき金二〇万円を下らない。

また、原告らは、被告の違法な本件整理解雇により、仮処分申請及び本訴提起の止むなきに至つたもので、弁護士費用として支出を余儀なくされた損害は原告らそれぞれにつき金一〇万円を下らない。

五  よつて、原告らは被告に対し、原告らが被告の従業員たる地位を有することの確認、昭和五八年一二月三一日以降の賃金(但し、原告野呂テル子は除く)と昭和五九年度夏期及び年末一時金の各支払、違法な本件整理解雇により原告らが蒙つた損害(慰藉料及び弁護士費用)の賠償並びに右夏期及び年末一時金に対する昭和五九年一二月二二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

(請求原因に対する認否と反論)

一  (認否)

1 請求原因一、二の事実は認める。

2 同三の冒頭は争い、同三の1の(一)は認め、同三の1の(二)、(三)は否認する。同三の2の(一)は認める。同三の2の(二)は認めるが、夏期一時金、年末一時金ともに欠勤控除を実施している。また昭和五八年度年末一時金の支給率は、支給時において満四七歳未満の正キヤデイーのみが一般職員比七五パーセントであつたもので、その対象者は別紙(二)一時金計算表番号43ないし53の原告らであつた。同三の2の(三)は否認する。被告におけるキヤデイーらの定年は満四七歳であり、これが延長された事実は存しない。同三の2の(四)のうち、正キヤデイー、臨時キヤデイーともに、その総支給額の算式、一時金勤続年数分の算出方法が原告ら主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する。なお、一時金頭割分算出に関しては欠勤控除をなすのが従前の算出方法である。

3 同四は全て争う。

二  (反論)

1 賃金支払請求に関し

仮に本件整理解雇が無効であり、従つて原告らが被告の従業員たる地位を有するとしても、被告においてはすでにキヤデイー制度そのものを廃止しており、キヤデイー業務は休業状態にあるから、被告は原告らに対し労働基準法第二六条に基づく平均賃金の六〇パーセントの休業手当の範囲内で支払義務があるに止まり、原告らのその余の請求は棄却されるべきである。

即ち、労基法二六条の規定は、使用者はその責に帰すべき事由の有無にかかわらず労働者に休業を命ずることができ、右休業が使用者の責に帰すべき事由による場合は使用者は労働者に対し所定の休業手当を支払うべき公法上の義務を負い、しからざる場合においては右の義務を負わない旨を定めたものと解すべきである。従って、本件において、被告が原告らに対し休業(キヤデイー制度廃止にともなうキヤデイー業務の休業)を命じ、かつその結果原告らが就労しなかつたことは原告らも認めているところであつて明らかであるから、原告らには右休業手当の請求権はあつても、賃金請求権は存しない。

また仮に、労基法二六条と民法五三六条二項との競合を認める立場に従うとしても、被告のキヤデイー制度の廃止は、抗弁一で述べるとおり、苦境に立たされた企業のやむを得ぬ合理化の要請にもとづく唯一の打開策であり、労基法二六条所定の帰責事由は存しても―不可抗力までは主張できないという意味で―民法五三六条二項の帰責事由は存在せず、従つて民法五三六条二項を適用する余地はない。

2 一時金支払請求に関し

一時金に関しては、原告らとの間にその支給に関する労働協約もなく、また就業規則上も、一時金支給に関する規定はない。仮に、慣行も含めて抽象的一時金請求権が存するとしても、労使間の合意(支給額、支給時期)があつて始めて具体的な一時金請求権として確定するものである。他の従業員との間で一時金支給についての協定(具体的請求権の根拠となる)が存するとしても、その協定が原告らを支給対象者としていないのであるから具体的一時金請求権は原告らに生じていない。

(抗弁)

一  (整理解雇)

被告の就業規則二七条本文には、「次の各号に該当するときは解雇する。」との規定があり、同条四号には、「事業の縮少その他やむを得ない経営上の事由によるとき」との規定があるところ、被告は、その経営合理化の必要からキヤデイー制度を廃止するほかなくなつたことに伴い、原告らを含むキヤデイー従業員全員を解雇せざるを得なくなつたので、就業規則の右規定に基づき、昭和五八年一一月二九日付文書で原告らを含むキヤデイー従業員全員に対し、同年一二月三〇日限り解雇する旨の意思表示をし、本件整理解雇をなした。

被告における経営合理化の必要性、キヤデイー制度廃止と本件整理解雇に至る経緯は次のとおりである。

1 経営合理化のためのキヤデイー制度廃止の必要性

(一) キヤデイーに対する高賃金

(1) 被告における原告らキヤデイー従業員の賃金実態と近隣五ゴルフクラブのキヤデイー(原告らと同様に正規の従業員たるキヤデイー。以下同じ)賃金の実態は別紙(四)キヤデイー賃金実態表のとおりであり、原告らの賃金は実働日数が少ないに反し賃金は高額であつて、その高賃金水準は他に例をみない。

(2) 右別表に基づき近隣五クラブと被告とのキヤデイー一日当りの賃金額を比較すると、

名四     七、一六二円八八銭

鈴峰     七、六三〇円五三銭

三鈴     七、七〇九円九二銭

桑名     八、九九七円五五銭

スリーレイク 七、七一四円四二銭

であるのに対し、被告は一万一、七九八円七七銭の高額となる。

右の一日当り賃金額で月間二五日就労の場合(被告におけるキヤデイーの勤務日数が極端に少ないので、正確な賃金水準を算出するため、月間勤務日数を統一して算出する)のキヤデイー賃金月額(一時金を含む)は、

名四     一七万九、〇七二円

鈴峰     一九万〇、七六三円

三鈴     一九万二、七四八円

桑名     二二万四、四三九円

スリーレイク 一九万二、八六〇円

であるのに対し、被告は二九万四、九六九円の高額となる。

この賃金格差はキヤデイー数を六〇名とした場合、被告は一年間に、

名四よりも、     八、三四四万五、八四〇円

鈴峰よりも、     七、五〇二万八、三二〇円

三鈴よりも、     七、三五九万九、一二〇円

桑名よりも、     五、〇七八万一、六〇〇円

スリーレイクよりも、 七、三五一万八、四八〇円

も多額にキヤデイー賃金額を負担することとなり、これは以下に記述する被告におけるキヤデイー収支の支出超過額を十分に裏付けるものである。

(3) 被告における最近一〇年間のキヤデイー収支は、別紙(五)キヤデイー収支一覧表のとおりである。

なお、キヤデイー厚生費は、昭和四五年末頃以前において、従業員厚生費として計上されていたところ、キヤデイー収支が多額の支出超過となり、この超過額を隠蔽するため元来従業員の一般の福利厚生に充当せられるべき厚生費をキヤデイーに振り分けたものに過ぎず、正確にはキヤデイー収入になり得ないものではあるが、仮にこれをキヤデイー収入に含ませるとしても同表の如き多額の支出超過となる。

なお、右数額には、本来キヤデイー収支に算入すべきキヤデイー業務に附随する業務のための支出であるカートの減価償却費(昭和五七年度二六七万三、七九三円)及びカート充電要員の人件費(同年度四三八万二、六一八円)は含まれていないので、支出超過額は更に増大する。

(4) 更に、原告らは昭和五六年一〇月、それまで四七歳であつたキヤデイーの定年が五五歳まで延長されたものと主張するが、仮に原告らのこの主張が認められるとすれば、右延長期間が退職金算定の期間となることにより厖大な退職金の膨張が生じ、現在のキヤデイーに対する高賃金水準を維持する限り退職金の積立は不能であり、被告の経理能力から負担し得ないことも明らかである。

(5) 右の如き高水準の賃金が実現せられたのは、原告ら及びその所属する総評三重一般労働組合分会の過激な闘争方法によつてである。

三重一般労組から分会に川口オルグが派遣された頃から原告らの闘争方法は極端に過激な手段―例えば順法闘争と称してキヤデイーの一斉出退勤を繰返し(就業規則上時差出勤制度が定められているにもかかわらず)、プレイヤーが競技中であつても「退勤時間が到来した」と称してプレイヤー・カートを放置してキヤデイーハウスに帰るなどしたため、プレイヤーから度重なる抗議を受けると共に「キヤデイー料を返せ」との要求が続出した。また第一回の団体交渉において労使間の妥結がみられないときはその夜の中に、原告らはキヤデイーハウスに通ずる被告通路の両側に数十本の赤旗若しくは労働組合旗を揚立してしまうなど―をとるようになり、プレイヤーからの赤旗の林立に対する不快感とこの除去を訴えられるたびに、被告は原告らの要求に応ずるほかなく、更には、原告ならびに原告らの属する労働組合分会は一斉出退勤は順法であるとして、三六協定の締結がなければ一斉出退勤を継続する旨を主張し、三六協定の締結を闘争の手段となして来た。このために、この締結期間が四日、五日とする非常識極まりない協定期間が存したのであり、加えて、役員の自宅、関係会社等に対するビラの貼付は、警察当局の説得があるまで、日常茶飯事の如く闘争手段とされていたのであつた。このために、当時の代表取締役、支配人は原告らの要求に屈するほかなかつたのである。

(二) 被告の経理内容

(1) 被告の最近一〇年間の決算は別紙(六)決算一覧表のとおりであつて、営業収支の恒常的な赤字がその経営実体を如実に示しており、被告は、後述する訴外四日市カンツリー倶楽部(以下「クラブ」という)の補助(決算書においては各年度いずれも雑収入として計上)によりかろうじて利益を計上し、あるいは欠損金を縮減してきたもので、現状では今後も大幅な欠損金を計上することが確実であり、企業の維持はもとより存在すら危ぶまれる状態にある。

(2) 被告とクラブとは名称は相似するが別個の存在であつて、クラブは、その会員の大部分が被告の株主であるが、株主でない会員をも含む法人格なき社団であり、然らずとしても被告とは別個の任意団体である。このクラブの会員はメンバーと称され、ビジターと称される会員外のプレイヤーより安価にプレイできる特典を有する。

被告とクラブの存在の本来的な意味は次のとおりで、他のゴルフ場においては現在もそれによつて運営されている。

即ち、株式会社(被告)はゴルフ場施設を保有し、一方、クラブは右ゴルフ施設を株式会社(被告)から賃借し、ゴルフ場の営業一切を負担すると共に業務運営(キヤデイー管理、コース管理、各種催し物の主催)を行なうというものである。

しかしながら、被告の場合には、設立の当初において株主―クラブ会員であつたことから右の機能的な分化が明瞭でなく、結局、クラブはキヤデイー管理その他のプレイ上の運営を担当するに止まり、ゴルフ場の経営は勿論、コースの維持・管理も被告の負担するところとなつた。

従つて、クラブ会員の会費は、クラブの各種催し物の費用に充当されるほか、クラブの積立金として維持されるのが本来であるが、被告はその営業収支の欠損を補うため、クラブの決議を得て昭和五〇年度まで及び昭和五七年度以降は会費の全額を、昭和五一年度から昭和五六年度まではその半額をクラブから贈与を受け、更に昭和五七年度にはクラブの積立金の一部取崩しを受けて、これをクラブから贈与を受けたものである。

またクラブの入会金等がクラブ会員の総有に帰する財産であつて、被告が欠損金填補のために任意に費消できないことは勿論である。

(3) 前記の如き被告の決算内容をもたらせたものは、唯一に、既述の如き原告らに対する高賃金であり、その負担は、被告役員に対する報酬等の支払、株主に対する配当の実施、更には被告の資本の蓄積を全く不能としたばかりか、コースの管理や改造等の支出の徹底した抑制を余儀なくされ、また退職給与引当金等各種引当金の積立にも支障をきたすほどであつた。

(三) 従前の合理化策とその限界

(1) 被告は前記のとおり退職給与引当金等各種引当金の積立を差しひかえる等の経理操作により欠損金の計上を可能な限り回避してきたが、これに限界のあることは自ずと明らかである。

(2) 被告は昭和五一年度以降徹底した経費節減を行ない、特にコース補修費の支出抑制を行ない、一定の成果を得たが、これがかえつてコースの荒廃と松喰虫被害の拡大をもたらし、昭和五六年度以降はコース補修費の増大を止むなくさせている。

(3) 被告は、前記のとおりクラブからの補助を得てかろうじて利益金を計上してきたが、これも昭和五五年度以降は右補助にもかかわらず総収支において欠損金の計上を余儀なくされている。

(4) 被告は昭和五〇年度利用料を大幅に値上げし(ビジターフイ五〇〇円、キヤデイーフイ三〇〇円)、これにより繰越欠損金を解消したが、キヤデイーに対する高賃金を維持しつつ総収支において欠損金の計上を回避するには、プレイヤー一人当りのキヤデイーフイを現行の二、五〇〇円から三、五〇〇円程度にも値上げする必要があり、この金額では近隣ゴルフ場に比較して著しい高額となつて、価格競争上プレイヤー数の減少をみることが不可避であり、かえつて欠損金の増大を招くことになりかねない。

(5) 被告は、別紙(七)従業員一覧表のとおり、職員(キヤデイーを含む)を最近一〇年間に一五四名から九六名に減少させ人件費の負担の軽減を図つてきたが、キヤデイーの関係では二回にわたり給与の切下げのないまま再雇傭期間の延長がなされたため、昭和五二年度以降キヤデイー賃金の総額は増加の一途を辿り、右従業員減少による経営改善努力はほとんどその功を奏していない。

(6) 前代表取締役宗村南男は、キヤデイー賃金が高水準にあつてこれが被告の経理を圧迫している状況から、キヤデイーの賃下げ交渉をしたが、これがかえつて組合の過激な闘争を呼ぶこととなつた。

(四) キヤデイー制度廃止の必要性と妥当性

(1) 前記の如く、徹底した支出抑制、経理操作、人員減少、利用料値上げ、クラブからの補助といつた合理化策を尽したにかかわらず、キヤデイーに対する高賃金のため恒常的な営業収支の赤字を計上し、総収支においても欠損金の計上を余儀なくされ、資本を喰潰している現状では、被告が経営の健全化を実現し、生残り(倒産の回避)を企図するには、もはや、電磁式カートを導入してキヤデイー制度を廃止し、もつてその高賃金負担から解放されるしか方途のないことが明らかである。

(2) 被告は既に前記のとおり合理化策を種々実施し解雇回避のための努力を尽くしているし、処分すべき不要不急の資産もなく、全従業員(昭和五八年一二月現在)九六名中キヤデイーが五九名を占め、下請会社も存しない被告においては、解雇回避のための配置転換や出向等の考慮の余地はそもそも存しない。

(3) 西日本において二二箇所のゴルフ場においてはキヤデイー制度が廃止されて、キヤデイー業務の無人化が実現されており、(名門ゴルフ場では、京都カンツリ・クラブ東コース、奈良カンツリー・クラブ等)、キヤデイー制度の完全な廃止にまではしないとしても、極端にキヤデイー数を減少せしめて、安価を求める大衆にはノー・キヤデイーによるプレイを提供するゴルフ場は数知れない。更に、ゴルフがサラリーマンを含む大衆の娯楽へと質的に変化する傾向にあることは否定出来ず、安価なプレイ代の要求に応ずるため、自動カートが関発され、キヤデイー制度を廃止して安価なプレイを実現して時代に適応しようとする傾向も、更にキヤデイー制度の廃止を促進しており、キヤデイー制度廃止は時代の趨勢でもある。

また、仮にキヤデイー制度廃止により、プレイヤー数が減少することがあるとしても、キヤデイーに対する高賃金の負担を排除できれば十分に合理化に資することとなる。

2 キヤデイー制度廃止に至る経緯

(一) 電磁式カートの導入

(1) 既述の原告らの労使間闘争における一斉出退勤は、プレイヤーのプレイにかかわらず、プレイヤー・カートを放置して、一定時間の到来と共にキヤデイー業務を放棄してキヤデイーハウスに帰つたため、プレイヤーから「プレイ代を返せ」「キヤデイー料を返せ」との要求が続出して、フロントにおけるトラブルが続出し、この解決策として、この事情を理解している会員の参加がなければ予約を受理しないこととしたため、プレイヤーが激減することとなつた。

(2) 被告は、右の一斉出退勤闘争に対抗するため電磁式カートを導入して、原告らの出退勤闘争にもかかわらず、プレイの続行を可能とすることを昭和五六、七年頃から検討し、クラブ理事(被告取締役でなく)が電磁式カート導入済の他ゴルフクラブを訪れ、その運営を見学していた。

(3) ところが、昭和五七年夏期一時金に関する交渉の中で、原告らの長期間にわたる一斉出退勤闘争は、急速に電磁式カートの採用を促し、昭和五七年末から昭和五八年春にかけて被告役員やクラブ理事である各関係者は、更に各ゴルフ場を訪れ、電磁式カートの採用による採算性や、一斉出退勤闘争に対抗し得る方策であることを確認し、昭和五八年一〇月始め電磁式カートの採用を決定した。この段階においては電磁式カートの採用は、あくまでも、原告らの一斉出退勤闘争に対抗する手段として検討されていたもので、キヤデイー制度の廃止ということは全く考慮されていなかつた。

(二) キヤデイー制度廃止の手続

(1) 右電磁式カートの施設工事中である昭和五八年一一月二日の定例被告取締役ならびクラブ理事合同役員会において、昭和五八年九月末仮決算報告がなされ、「昭和五八営業年度の損失見込額が約三、五〇〇万円」であることが明らかにされ、この原因がキヤデイーに対する賃金の高負担(この点については従前から明白であつた)にあり、この高負担が存続する限り将来にわたつて損失金の計上が不可避であること、秦代表取締役就任後の調査による、就任前の経理操作、合理化努力が報告され、右の努力にもかかわらず、損失金の増大傾向にあることが各取締役・理事の検討により明らかとなつた。ここにおいて、経営改善のためにはキヤデイー制度を廃止する以外に方途がなく、時期を同じくして工事中であつた電磁式カートの採用は、キヤデイー制度の廃止に耐え得る旨の意見が他クラブ見学済の取締役・理事から提出された。

(2) そこで、被告は、同月一二日開催されたクラブの会員総会におけるキヤデイー制度廃止の決議をうけて、翌一三日原告らの所属する三重一般労働組合分会に、右決議事項たるキヤデイー制度の廃止と、〈1〉これに伴う原告らキヤデイー全員の解雇、〈2〉解雇条件については協議の意思あることを伝達すると共に、〈3〉被告の経営合理化を要する事情を説明し、解雇につき了承せられたき旨を申し入れ、その後に原告らに対する本件整理解雇をしたものである。

二  (再雇傭期限の到来による雇傭関係の終了)

仮に本件整理解雇が無効であるとしても、原告市川清子、同曽我きく子、同大橋清子、同市川孝子、同平田すみゑの五名はいずれも満四七歳の定年に達した後再雇傭された臨時キヤデイーであるところ、原告市川清子は昭和五九年三月一〇日に、同曽我きく子は同年七月二〇日に、同大橋清子は同年八月三一日に、同市川孝子は同年九月三〇日に、同平田すみゑは同年一〇月一〇日に、それぞれ臨時キヤデイーの再雇傭期限である満五五歳に達したので、右各期日をもつて被告と右原告五名との雇傭関係は終了した。

(抗弁に対する認否と反論)

一  (認否)

1 抗弁一のうち、被告の就業規則二七条本文、同条四号に被告主張のような規定の存すること及び被告が原告らを含むキヤデイー従業員全員に対しキヤデイー制度廃止を理由として本件整理解雇をしたことは認めるが、その余はすべて争う。

2 同二のうち、原告市川清子、同曽我きく子、同大橋清子、同市川孝子、同平田すみゑの五名が被告主張のような臨時キヤデイーであること、右五名が被告主張のそれぞれの日に満五五歳に達したこと、従前臨時キヤデイーの再雇傭期限が満五五歳に達したときであつたことは認めるが、その余は否認する。

再抗弁で主張のとおり再雇傭期限は延長されたものである。

二  (抗弁一に対する反論)

被告にはその主張のような経営危機は全く無く、キヤデイー制度廃止の必要性はいささかも存しないし、経営政策としても失当である。

1 キヤデイーに対する高賃金は虚偽である。

キヤデイーに対する高賃金は被告が故意に作出しているに過ぎない。即ち、被告はキヤデイーに対する高賃金を実証するものとして近隣ゴルフ場との比較をしているが、これらの比較はゴルフ場の営業成績、キヤデイーの地位、入社の経過、賃金体系、勤続年数、年令、仕事量、キヤデイーフイの額等さまざまの賃金決定をとりまく条件を同一にして始めて成立する議論であり、その相違点を無視した被告の主張は無意味である。また被告はキヤデイー収支においても本来キヤデイー収入に算入すべきキヤデイー厚生費を除外して故意に多額の赤字を計上せんとしている。

のみならず、被告はキヤデイーの高賃金は原告らの所属する労働組合の過激な闘争によつてもたらされたと主張するが、原告らの所属する組合が、組合旗の揚立等の争議戦術をとつたのは、昭和五四年に、一般男女職員の賃金是正と被告の組合脱退工作抗議を目的に闘つた時、昭和五六年の年末一時金の際、宗村社長(当時)が夏期一時金交渉の約束を破つたことが原因で闘つた時、そして、昭和五七年の夏期一時金の際、右同様約束を破つたために闘わざるを得なかつた時の三回だけであり、これらは全て、全面的に被告に責任がある問題であつた。

2 キヤデイー収支のみを問題とすることは無意味である。

キヤデイー部門は他の部門と不可分一体をなし、被告の総収入の向上に寄与しているのであつて、独立採算の考えが妥当する領域ではない。従つてキヤデイー収支のみを取り上げることは的はずれであつて、総収支に着目しなければならない。

3 被告の総収支だけから判断しても被告にキヤデイー制度を廃止しなければならないような経営危機は存しない。

昭和四九年度から昭和五八年度までの一〇年間で被告が損失を計上したのは五年間のみである。

しかも、損失を計上した昭和五五年度は、クラブハウスを新設し、金八、五九二万円余りの固定資産除却損の特別損失を出した年度(但し、クラブより建設協力金五、八九〇万円の建設協力金の特別利益が計上されているが、差し引きしても、金二、七〇二万円の特別損失計上となる)であり、これがなければ、金四四〇万円の利益計上となるのはもとより、クラブハウスの新設は、設備投資であつて経営悪化の理由となりえない。

また、昭和五六年度は、松喰虫が発生し、松喰虫対策によるコース管理費が前年度より約五、〇〇〇万円近い増加となつたのであり、これを差し引けば、金三、四〇〇万円近い利益を計上出来たことになる。

のみならず、被告の含み資産を考慮すれば、経営危機とは全く言いがたい。即ち、被告の昭和五八年度事業報告書の貸借対照表上、被告所有土地三四万坪の評価は一億五、七八五万円となつているが、被告所有の土地建物に担保は設定されていないし、四方はあさけが丘団地等に囲まれた土地であつて、仮に極めて過少に評価して坪一万円としても、これだけで三四億円の価値がある。

更に、例えば他のゴルフ場に比し安価に過ぎるメンバーフイを値上げする等収益を上げる方策は無数にあり、経営危機といつた状況ではあり得ない。

4 クラブと被告は一体であり、クラブ会員の支払う入会金等は被告の財産とみるべきもので、被告の経営は実質的には大幅な黒字である。

被告は、一応クラブと別々に会計処理をし、入会金、名義書替料(以下、名変料という)、年会費などを原則としてクラブの財産であるとし、クラブから会社へ譲渡したり、貸し付けたり、保証金として差し入れたりするという形をとつている。

そして、会社の経営は赤字であると主張している。

然しながら、被告のように株主会員制の場合は、会員が優先的に有利にゴルフプレーができることを目的として会社が作られたので(この本質は株を持たない会員が一部いたとしてもかわるものではない)、会員の集合体であるクラブと会社とは、実質的に一体である。

また、入会金、名変料、年会費などはゴルフ場経営のために集められた金であるから、ゴルフ場を経営する主体である会社の財産である。

被告が、会社とクラブを別会計にし、しかも入会金、名変料、年会費をクラブの財産であるとするのは、税金対策と労務対策のためにすぎない。

クラブの目的は、会員の親睦と体位の向上にすぎず、クラブの実質的な支出はせいぜい年間金一、〇〇〇万円位にすぎず、膨大な金額の入会金、名変料、年会費を収入とする目的も根拠もない。

年会費及び名変料を会社の収入とすれば、約金三億四、〇〇〇万円も黒字となり、入会金も収入に入れれば、約金九億円もの黒字となる。

年会費はもちろん、入会金も名変料も返還しない会則になつており、収入に入れるのは当然である。

5 被告の経営が実質的に大幅な黒字であることは次の点からも裏付けられる。

(一) 被告は本件整理解雇に至るまで経営危機にあるといつた主張をしたことはないし、組合との賃上げ交渉や一時金交渉においても常に有額回答してきた。

(二) ゴルフコースの荒廃といつた事実はなく、コース管理費等の支出抑制といつた事実も存しない。

(三) 役員報酬は、これが名誉職と認識されていることから、これが支給されていないのであつて、被告の経営内容とは関連がない。

(四) 被告は、本件整理解雇が仮に無効であるとしても、キヤデイー制度廃止はすでに決定されたとして、請求原因二の仮処分決定後も原告らに自宅待機を命じ、以後一年以上も給与の六割(毎月約六〇〇万円)を休業手当として支払つている。

キヤデイーを働かせて給与を支払つた方が金銭的にも有利であるのに、このようにしているのは経営的に余裕があるからに他ならない。

(五) 被告は、昭和五九年一〇月には、キヤデイーに対し、希望退職を募り、特別退職金として一人金三〇〇万円を加算するといつたが、仮に全員が退職したならば、一億五、〇〇〇万円以上にもなり、これだけの出費を通常の退職金に加えて直ちに支払う意向(通常の退職金と合わせれば実に約金二億五、〇〇〇万円となる)を示したものであり、いかに経営に余裕があるかがわかる。

(六) 被告は、キヤデイー全員解雇のすぐ前の昭和五八年一〇月に約金六、〇〇〇万円で、電磁式カート(グリーンボーイ)を購入している。

右購入の時点では、キヤデイーを解雇する意図はなかつたというが、そうだとすると、キヤデイーの給与に加えて、グリーンボーイの機械代も財政負担となることが明らかであり、実質的に赤字ではなかつたことが明らかである。

(七) 株主会員制のゴルフ会社は、利益を上げて配当をするのが目的ではなく、株主たる会員が優先的に有利にゴルフプレイをすることが目的であり、会員はそのために会員(株主)になるのである。

従つて、ゴルフ会社が株主に配当をすることはまずあり得ない。

税金を払つて配当するほどの余裕があるならば、設備をよくしたり会員のプレイ代を安くしたりする筈である。

従つて、決算としては税金を払わないでもよいような決算をすることはあたりまえであり、配当を実施していないことは経営危機とは関連がない。

6 キヤデイー制度廃止は、入場者減による経営悪化をきたし、経営政策としても失当である。

(一) ノーキヤデイーゴルフ場は極めて少数。

被告は西日本にノーキヤデイーゴルフ場が二二か所もある旨主張するが、西日本には、六三〇余りのゴルフ場が存在するのであり、その比率は、三パーセント強にしか過ぎない。しかも、右の中には、キヤデイー制度のあるもの、ゴルフ場が閉鎖されているものもある上、被告に比べ入場料が極端に安い、いわば、二流、三流のコースなのである。

(二) キヤデイーを希望するプレイヤーは多い。

クラブの会員には、明治生まれが約七〇名、大正生まれが約二七四名もおり、これらの高齢者会員がキヤデイーを希望するのは当然である。

また、企業の接待ゴルフにキヤデイーのいないゴルフ場を選ぶことはほとんどない。

(三) 入場者数の激減

昭和五九年度の被告ゴルフ場の入場者数は、前年に比し六、四三〇名の減少であり、昭和五七年度との比較では七、三八五名の減少となる。

昭和五九年度は、昭和五七年一〇月から行つたビジターの入場制限(会員同伴、会員一人で二組まで)を、会員同伴でなくとも紹介状があればよく、なおかつ、何組でも入場できると、制限を緩和したにもかかわらず減少したのである。また、入場者の激減に対し、入場者を確保するため、一〇月より休場日である月曜日も開場し、約七〇〇名を休場日に入場させた上での減少である。さらに、本裁判で、経営政策上の妥当性も一つの争点となつており、被告としては、必死で減客にならないよう努力した上での減少なのである。

(再抗弁)

一  解雇権の濫用(抗弁一に対し)

仮に本件整理解雇が、被告が主張するように、就業規則の規定する解雇事由に該当するとしても、経営者としては直ちに労働者を解雇することは許されず、解雇以外の方法により余剰労働力を吸収するよう努め(解雇回避努力義務)、かつ労働者の納得が得られるよう労働組合との協議を尽くさなければならない(労使協議義務)のに、被告は、次に述べるとおりこれらを全くなさずして本件整理解雇をしたものであるから、本件整理解雇は、労働契約上の信義則違反ないし解雇権の濫用として無効である。

被告の解雇回避義務違反、労使協議義務違反についての詳細は次のとおりである。

1 解雇回避義務違反

被告は抗弁一でこれまで種々合理化策を尽くしてきた旨主張するが、事実は全く反対であり、これまでいたるところに無駄な経費を費やしてきたばかりか、直ちに実行可能な解雇回避の方策は、例えば、キヤデイーフイの値上げ、あるいは他のゴルフ場に比べ非常に安いメンバーの入場料の値上げ、さらには、昭和五七年途中より実施してきたビジターの入場制限の撤廃(ビジター一人当たり平日一万四、四三〇円、土曜一万六、四三〇円、日祝日一万七、四三〇円の入場料であり、多額の増収となる)、そして、昭和五九年度一〇月以降実施した、休場日にコンペを誘致して入場者増を図るなど多数存在するにもかかわらず、これらにつき真剣な検討を加えることすらせず、本件整理解雇に至つたもので、被告の解雇回避義務違反は一見明白である。

2 労使協議義務違反

被告が原告らの所属する労働組合に本件整理解雇をなす旨通知してきたのは、その直前の昭和五八年一一月一三日であり、それ以前には何ら労使間協議はなされていない。

被告は、右通告以後、組合の団交申入れによつて、昭和五八年一一月二三日から同年一二月二九日までの間六回に亘り組合との協議の場に臨んだが、いずれも「解雇は会社の方針だから変更できない」との結論を述べるに終始したもので、被告は単に形式的な協議の場に臨んだだけで、労使協議義務は何ら尽くされていない。

なお、被告の就業規則や被告と原告らが所属する組合との労働協約には整理解雇に際しての労使協議を義務づける規定は存しないが、被告は労働契約上の信義則により右協議義務を負うものである。

二  不当労働行為(抗弁一に対し)

原告らは、いずれも被告の従業員によつて構成する三重一般労働組合四日市カンツリー分会(但し、本件整理解雇当時は三重一般労働組合四日市カンツリー倶楽部分会と同倶楽部一般分会とに分れ、原告らは前者に属していたが、昭和五九年三月三〇日組織統一されたものである。)に所属し、その組合活動を行なつてきたものである。

被告は、原告らの右組合活動を嫌悪し、経営合理化によるキヤデイー制度廃止に名を藉り、原告らの所属する組合を破壊、弱体化させる目的で本件整理解雇をしたもので、不当労働行為に該当し、無効である。

このことは、原告らがこれまで述べてきたごとく、被告にはキヤデイー制度を廃止しなければならないような経営上の必要性は全くないうえ、解雇回避努力や労使協議を尽くすことなく、被告が一方的に本件整理解雇をしたものであることや、原告らの組合活動を嫌悪する被告が、昭和五六年一二月末ころ、そのテコ入れで「自主労働組合」なる第二労働組合を作らせて以降、原告らに対し行なつてきた組合脱退工作や差別的取扱い、組合事務所の明渡要求等枚挙に暇のない数々の不当労働行為によつて明白であり、被告は本件整理解雇を、これまでの不当労働行為のまさに切り札として行なつたものである。

三  再雇傭期限の延長(抗弁二に対し)

原告らの所属する組合(但し、当時は三重一般労働組合四日市カンツリー倶楽部分会)は、昭和五七年三月四日、被告との間で再雇傭期限を従前の満五五歳に達したときから満五八歳に達したときに延長する旨の書面による協約を締結した。

即ち、右書面による協約の条項は、

1 女子雇傭保障について現行通り満五七歳とする。

但し、コース管理で就業している者は満五八歳迄雇傭する。

2 賃金、労働条件は、現行通りとする。

3 実施期日 昭和五七年三月二日

というもので、これにより、原告らキヤデイーを含む女子職員は、満五七歳に達するまでは現行の職種のまま(即ちキヤデイーはキヤデイーのままで)就労し、満五七歳に達したのち満五八歳に達するまではコース管理として就労することが協約されたのである。

(再抗弁に対する認否と反論)

一  (認否)

1 再抗弁一は全て争う。但し、昭和五八年一二月末日までに六回の団体交渉を持つたことは認める。

2 同二のうち、原告らが主張の組合に帰属し、組合活動を行なつてきたことは認めるが、その余は否認する。

3 同三のうち、原告ら主張の日に原告ら主張のような条項の書面による協約が成立したことは認めるが、その余は否認する。右条項の「女子」には原告らキヤデイー従業員は含まれておらず、右協約はキヤデイーを対象としたものではない。

二  (再抗弁一、二に対する反論)

1 前述の如くの原告らの過激な闘争手段のため、労使間に紛争の多かつたことは事実であるが、この事実をもつて、本件経営合理化に因る解雇が、組合潰しとする不当労働行為との推定を受けるものではない。経営合理化は純粋に経営的な判断に基づくもので、これが企業の合理的運営上、止むを得ない必要性が認められる限り、労使間の紛争とは無関係に判断されなければならない。

2 経営合理化の必要性があることはすでに抗弁一で述べたとおりであるし、解雇回避についても同様である。キヤデイー制度の廃止による解雇の対象は約一〇〇名の従業員の中、キヤデイー六〇名であり、全従業員に比してこの余剰労働力を他の部門に吸収する余力は被告にないことは勿論、下請企業の存しない被告にとつて回避可能性は全く存しない。また、本件の合理化の必要性は、原告らキヤデイーの高賃金水準がもたらせたものであるから、仮に、他部門に吸収が可能であるとしても合理化に資するものではない。

また、労使協議義務は、労働協約上も何らこれを必要とする規定は存せず、右義務自体被告は負つていない。もつとも事実上原告らに対する説得はすべきであることは被告としてもこれを認めるが、後述のとおり、被告は十分な説明説得を行なつているし、本件の如く、経営を合理化すべき必要性が存し、キヤデイー部門の廃止による余剰労働力の吸収の余地なく、キヤデイー部門の廃止が唯一の合理化策(キヤデイーに対する高賃金負担の排除)であるとき、労使間における協議によつて解雇回避の方策が生ずる余地は全くないのであるから、労働組合に対する説明が、仮に、不十分であつたとしてもこれが組合無視として不当労働行為となるものでも解雇権濫用になるものでもない。

被告の原告らの所属する組合に対する説得の経緯は次のとおりである。即ち、被告は昭和五八年一一月一二日のクラブ会員総会におけるキヤデイー制度廃止の決議をうけて、同月一三日原告らの所属する組合に対し、キヤデイー制度廃止に伴うキヤデイー解雇を口頭で申し入れ、同月一五日、解雇理由を開陳して書面により解雇を申し入れ、解雇条件については交渉に応ずる旨を申し入れた。

しかるところ、原告らの所属する労働組合は、右被告の口頭による解雇申入れ日の翌日である一一月一四日には解雇撤回のため特別行動に出ることを被告に通告し、以後解雇期日たる一二月末日までに六回の団体交渉が持たれたが、原告らの主張は終始して解雇撤回であり、被告の説得に応ぜず、説得は功を奏しなかつた。右のとおり、被告は誠意をもつて解雇理由を開陳し、必要とあれば資料の提供を予定しても、原告ら(所属組合も含めて)が、ただ解雇撤回を要求し、討議(解雇が不可避かどうかを検討するための)の機会も得られないままに終始したもので、被告としてとり得る手段なく、解雇条件は「交渉に応ずる」旨の誠意も全く無駄な提案に終つたのである。

第三証拠〈省略〉

理由

第一地位確認請求につき

一  請求原因一、二の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで抗弁一につき判断する。

1  被告の就業規則二七条本文に「次の各号に該当するときは解雇する。」との、同条四号に「事業の縮少その他やむを得ない経営上の事由によるとき」との規定が存すること、被告が原告らを含むキヤデイー従業員全員に対し、キヤデイー制度廃止を理由として、昭和五八年一一月二九日付文書で本件整理解雇をしたことは、当事者間に争いがない。

2  被告は本件整理解雇が就業規則の右規定に基づく旨主張するので、以下右規定該当の有無につき検討する。

(一) 成立に争いのない甲第三四三号証、乙第四号証、第六号証の二ないし一一、乙第二九号証、原本の存在とその成立につき争いのない乙第七号証の二ないし一一、証人藤野好男の証言(第一回)により真正に成立したと認められる乙第五号証の一ないし五、証人金田二郎の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、被告とその近隣五ゴルフ場におけるキヤデイー従業員に対する昭和五八年九、一〇、一一月分の賃金、昭和五七年一二月、昭和五八年六月の各一時金の一人当り平均支給額は別紙(四)キヤデイー賃金実態表のとおりであり、原告らを含む被告のキヤデイー従業員は近隣ゴルフ場のキヤデイー従業員に比し相対的に高賃金の支給を受けているし、全国的にみても高額の部類に属すること、被告においてキヤデイー関連の収入と支出をピツクアツプして(収入にはキヤデイーフイ等の外キヤデイー厚生費を含み、一方支出にはカートの減価償却費、カートの充電要員の人件費は含ませていない)算出した収支は、別紙(五)キヤデイー収支一覧表のキヤデイー厚生費控除後の支出超過額欄のとおりであり、各年度いずれも支出超過となつていること、被告の昭和四九年度から昭和五八年度まで過去一〇年間の決算内容は、その事業報告によれば、別紙(六)決算一覧表のとおりであり、その営業損益は各年度いずれも赤字であり、総収支においても昭和四九年度及び昭和五五年度以降は欠損を計上している(昭和五二年度は法人税の還付により最終的には利益を計上している)こと、がそれぞれ認められる。

(二) 被告は、右被告の恒常的な営業収支の赤字や総収支における欠損の計上の唯一の原因は原告らを含むキヤデイーに対する高賃金であり、クラブの補助を得てかろうじて利益を計上し、あるいは欠損を縮減してきたものの、現状では今後も多額の欠損を計上することが予測され、企業の維持のみならず存立すら危うい状態にあると主張し、原本の存在と成立につき争いのない甲第八一号証、第二三八号証、第三五六号証、第三五八、第三五九号証、乙第一九、第二〇号証、第三六号証、成立に争いのない甲第八二号証、第三六四号証、証人藤野好男の証言(第一回)により真正に成立したと認められる乙第二、第三号証、第一五号証、第一七号証、証人藤野好男(第一回)、同宗村南男の各証言中には、これに沿うかのごとき部分が存する。

一方、原告らは、被告には主張のような経営危機はないし、被告とクラブとは実質的には一体であり、クラブの収入は当然に被告の経営資金に供されるべきものであり、これを考慮すれば、被告は実質的には大幅な黒字である旨反論する。

(三) そこで被告とクラブとの関係についてみるに、前掲乙第六号証の二ないし一一、原本の存在と成立につき争いのない甲第二三四号証、第二六七号証、第三五五号証、成立に争いのない甲第二四一ないし第二五九号証、第二六三号証、乙第六号証の一、第一一、第一二号証、第一八号証の一ないし一〇、第二一号証、証人渡部幸雄の証言により真正に成立したと認められる甲第二六五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第二六六号証、証人片山茂則、同渡部幸雄の各証言(但し、右各証拠中後記措信しない部分を除く)及び弁論の全趣旨を総合すると、

(1) 被告は、ゴルフ場の経営を目的として昭和三三年に設立された株式会社であり、一方、クラブは被告の経営するゴルフ場施設の利用、維持運営を通し、ゴルフの発達普及、会員相互の親睦、体位の向上を目的とする団体で、その意思決定機関として会員総会が、業務運営機関として理事会が設けられ、理事長がクラブを代表することとされており、一応被告とは別個の団体としての形式を整えていること。

(2) もつとも被告においては、その設立当初よりその募集に応じてクラブの会員となつたものが同時に被告の株主にもなることとなつていたもので、その後、若干の株主とはならない会員(第二正会員、週日会員、婦人会員がこれに該当する)が募集されてはいるが、現在でもクラブの会員のほとんどは、同時に、被告の株主であり、原則的にはクラブの会員が同時に株主でもあるいわゆる株主会員制のゴルフ場であること。

(3) また、その活動においては、ゴルフ場を経営するのは被告ではあるが、その競技運営等ゴルフ場利用に関する事項に関してはクラブに設置されたキヤデイー委員会等の各種委員会がこれを担当し、また入場料等の利用料金の決定に関しても、クラブの理事会の決定を経て被告が決定することとされ、一方、後述するとおり、クラブの会員が支払う年会費等の一部ないし全部が被告の収入とされ、あるいはクラブの理事の選任はクラブの理事と被告の取締役から選任される銓衡委員によつてなされ、クラブの理事と被告の役員を兼ねる者が多く、また被告の取締役会とクラブの理事会は、合同役員会と称して、同時に開かれるのがほとんどであるなどの関係にあること。

(4) クラブの会員は会員となることによつてメンバーと称されて、会員外のプレイヤー(ビジター)と区別され、優先的にかつ安価なプレイ料で被告経営のゴルフ場を使用することができるが、他方クラブ会則及びクラブ理事会の決定に基づき年会費等の支払を義務づけられ、一方クラブは右金員につき会員に対する返還義務は負わないこと(後述のとおり保証金と称されていた金員については会員に対する返還が約されていたが、これも返還を要しないことに会則が変更された)。

(5) クラブ会員が支払義務を負うものとしては、年会費のほか、被告の会員募集に応じ会員として入会する際の入会金(但し、昭和四六年度までは保証金と称され、会員に対する返還が約されていたが、その後、会則変更により返還を要しないこととなつた)、また会員の地位の譲渡を受けて新たに会員となる場合の入会金(但し、昭和四六年度までは、保証金及び名義書換料名義で徴収され、保証金は会員に対する返還が約されていたが、その後、会則変更により保証金の返還が不要とされるとともに、右保証金及び名義書換料を併わせ入会金と称するようになつた)があり、また法人会員についてはその指定する二名以上の者について記名会員証が交付されるところ、右記名会員の変更にも法人会員登録変更料(法人記名者変更手数料とも称された)を支払うことを要することとなつていること。これら収入は各年度により変動はあるものの、昭和四九年度以降昭和五八年度までの一〇年間のうち、少ない年度においても優に三、〇〇〇万円を超え、多い年度では三億円にも達すること、これらのうち、年会費は、昭和五〇年度までは全額が、昭和五一年度から昭和五六年度まではその約半額が、クラブ会計を経由して被告の収入とされ、昭和五七年度、昭和五八年度はいずれも全額がクラブ会計を経由せず、直接に被告の収入とされ、逆に被告からクラブへ運営費が入れられ、これがクラブの運営資金に充てられていること、入会金に関しては、昭和四六年度まで保証金と称された部分は、ゴルフ場施設利用の保証金として、同年度まではクラブを経由してそのまま被告の経理に組入れられていたが、昭和四七年度以降は、右保証金と称された部分及び同年度以降の入会金はすべて入会金としてクラブの会計において基金組入の処理がなされるようになり(なお、これと同時に、昭和四六年度まではクラブ独自の支出等の計上は全くなかつたが、昭和四七年度以降、事業費、事務費等クラブ運営に関わる独自の支出が計上されるようになつた)、昭和五八年一二月三一日現在の右基金組入額の累計は九億四、三三三万四、〇〇〇円にも達すること、入会金中昭和四六年度まで名義書換料と称された部分については、同年度までその全額がクラブ会計を経ることなく直接被告の収入とされていたこと、法人会員登録変更料は、昭和四七年度から昭和五四年度まではその全額がクラブの収入とされ、クラブ運営費用にあてられたが、昭和五五年度以後はクラブ会計を経由することなく直接被告の収入とされていること。

が認められ、前掲甲第二六七号証、第三五五号証、乙第二〇号証、証人片山茂則、同渡部幸雄の各証言中右認定と異なる部分はにわかに措信できず、他にこれを覆すに足る証拠はない。

なお、被告は、会員クラブと会社の存在の本来的な意味は、会社かゴルフ場施設を保有し、会員クラブがこれを賃借してその経営を行なうことにあり、他のゴルフ場ではこれが実行されている旨主張し、前掲乙第二〇号証、証人片山茂則の証言中にはこれに沿う部分が存するが、成立に争いのない甲第二六〇号証、証人金田二郎の証言によつても明らかなごとく、必ずしも一概に右のようには言えないのであつて、むしろ右証拠によれば、ゴルフ場の経営は基本的には会社が行ない、会員クラブはその経営に限定的に参画し、あるいは会員間の親睦を図る活動をするにとどまり、一方、会員クラブの年会費や名義書換料等の会員クラブ収入のほとんどを会社にその経営資金として使用させているのが多くの株主会員制ゴルフ場における実状と認められるのであつて、被告における被告とクラブとの関係は何ら特異なものではないことが明らかである。

(四) 右の事実によれば、クラブは被告とは一応別個の団体としての形式を整えているとはいえ、昭和三六年度から昭和四六年度までの間、クラブ関係の収入は、全て被告の経営にあてられるべきものとして被告の経理にそのまま組み込まれていた(もつとも入会金中保証金と称された部分及び会費については、一応クラブの会計を経由してではあるが)訳であつて、少くともこの間においては、被告もまた被告とクラブとが実質的に一体であることを認めていたと言うべきであろう。

ところが、これが昭和四七年度以降様相を異にし、クラブにおいて入会金を基金組入し、あるいは独自の支出が計上されるなどしたことも前記認定のとおりである。

しかし、これとても、前記認定事実、前掲甲第二三四号証、第二六七号証、第三五五号証、成立に争いのない甲第二六二号証、証人渡部幸雄、同片山茂則の各証言(但し、右証拠中後記措信しない部分は除く)及び弁論の全趣旨を総合すれば、入会金の基金組入は、クラブの会則変更によつて会員に返還する必要がなくなつたことから、従前同様の会計処理ではこれが全て被告の収入となつて多額の税金が課せられることとなるので、これを回避するためにとられた手段と認めるのが相当であること(前掲甲第二三四号証、証人片山茂則の証言中これと異なる部分はにわかに信用できない)や、前記認定のとおり昭和五五年度以降においても、法人登録会員変更手数料や年会費がクラブの会計を経由せずに直接被告に収入として計上されたり、逆にクラブが被告からその運営資金を得ている等の処理がなされていることに照らせば、前記昭和四七年度以降のクラブ会計処理をもつて被告においてクラブが被告と別個の団体であるのにこれを実質的に一体とみてきたことの不当を是正するために行なつたものとは到底言えず、昭和四七年以降もむしろ被告は、基本的には被告とクラブは一体であり、クラブの収入金をその必要に応じ被告の経営資金にあてることは何ら差しつかえないものとの認識に立つていたと言うほかない。このことは、前掲甲第三五八号証、乙第一九号証、甲第二三八号証によつて認められるとおり、被告の取締役であり、昭和五三年からクラブの理事である二井重吉及び昭和五八年三月被告の支配人に就任し本件解雇予告に深く関与してきた藤野好男のいずれもが、昭和五九年になつて行なわれた地方労働委員会の審問においてすらも、クラブがゴルフ場の経営をしているといつた供述をなしていることや、前掲甲第二三四号証、原本の存在と成立につき争いのない甲第三五七号証、乙第三五号証、証人片山茂則、同宗村南男の証言によつて認められるとおり、昭和五〇年から昭和五七年まで被告の代表取締役宗村南男ですら被告とクラブの会計的な区別がわからず、クラブからの援助を受けて被告の赤字を解消ないし縮減することを当然のこととしていたことや、被告の取締役でクラブの理事でもあり、かつ公認会計士でもある片山茂則においても、クラブの基金は被告の損失等の補填にあてるべき財産であるとの認識に立つていることからも明らかである。

ただ、被告が右のとおり被告とクラブとを実質的に一体と見、経理も混同されていたとしても、クラブが被告と別個の団体である形式を整えていること及び会員が入会金や年会費を支払わなければならないのはクラブ会則によつてであることは前記認定のとおりであるから、入会金や年会費等の収入はクラブ運営そのものに使用されるべきであるし、余剰金が出ればクラブのため積立てておくべきであつて、これが被告の経営資金に供さるべきものではないと言えなくもない。

しかし、クラブは前記認定のとおり基本的には親睦団体に過ぎないのであるから、その活動のための会費徴収等のみであれば、ごくわずかの入会金、年会費等徴収すれば足りるはずであつて、クラブが現に徴収しているような多額の入会金、年会費等の徴収は全く不要であるばかりか、その入会金等の返還を要しなくなつた昭和四七年度以降は、これを基金として保留しておく必要は全くないはずであり、これら多額のクラブ関係収入をクラブ運営のための収入と言うだけでは到底右実情を説明できないというべきである。

クラブ会員の支払う入会金や年会費等の出捐は、なるほどその会則に根拠があるとしても、その出捐の主たる目的は、会員等の親睦活動といつたものではなく、会員としての特典、即ち、有利な条件で被告の経営するゴルフ場を利用できることの地位の獲得及びその維持確保のためというべきである。そして右有利な会員としての地位の獲得、維持確保は形式的には会員としての義務の履行、即ち入会金や年会費等の支払によつてこれがなされるとしても、実質的にはゴルフ場は被告が経営しているのであるから、被告が会員の有利なゴルフ場使用を認容して始めてこれが可能となるのである。

従つてこれらクラブ関係収入は、その一部がクラブ行事の運営費として使用されることは勿論としても、その余は会員としての地位の獲得、維持確保の対価として被告に供されることが、当然に、被告、クラブ及び会員との間で、予定されていると認めるのが相当である。

右のように解することによつて始めてクラブ会員が多額の入会金や年会費の支出を認容し、かつ、これが被告の必要に応じ、被告の収入とされ、その経営資金として使用されている実態を正当に理解し得るというべきである。

(五) そうすると、被告の収支を実質的に検討するには、被告が既に収入として組入れたクラブの年会費等のみならず、その他の入会金等のすべての収入も被告の収入としてとらえる(もつともこのことは、現実の会計処理としても現在クラブ会計に保留されているクラブ収入を直ちに被告の収入として計上すべきことを意味するのでは勿論ない。一時的にこれをクラブにおいて積立て、これを必要時取り崩して被告の収入となすことはもとより差しつかえないというべきであるし、まさにそのような会計処理を可能とするためにクラブが存するともいえる。)ことを要することとなるのであつて、結局、原告ら主張のごとく、被告とクラブの収支を一体としてみるべきこととなる。

そしてこれによつてその実質的収支をみると、例えば、前記認定の昭和五八年一二月三一日現在のクラブ基金組入累計九億四、三三三万四、〇〇〇円も被告の収入として把握すべきこととなるわけで、被告の実質的な収支が大幅な黒字であることはこの一事からも明白であり、被告主張のような経営危機では全くないこととなるのである。

(六) 被告に実質的な経営危機の存しないことは、本件整理解雇に至るまでの被告役員らの経営危機に対する認識の程度及び経営態度からも裏付けられる。

なぜなら、被告の主張からすれば、合理化を必要とする会社経営の危機的状態は、過去から継続して存した訳であるから、当然、これに見合つた危機意識が持たれかつ経営改善努力がなされてきたはずである。

ところが、実際には、前掲甲第八一号証、第二三四号証、第二三八号証、第三五六ないし第三五九号証、乙第六号証の一ないし一一、第一七号証、第一八号証の一ないし一〇、第一九、第二〇号証、第三五、第三六号証、原本の存在と成立につき争いのない甲第二三〇、第二三一号証、第二三五号証、第二三七号証、乙第八号証の一ないし一二、成立に争いのない甲第三四一号証の一ないし四、第三六二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第七三ないし第七六号証、第九七ないし第九九号証、第一〇一ないし第一〇七号証、第一一〇号証、第一一五号証、第一一九号証、第一二一号証、第一二四号証、第一二五号証、第一三〇ないし第一三四号証、第一三七号証、第一四六号証、第一六二号証、第一六三号証、証人宗村南男、同藤野好男(第一回)の各証言、原告森弘子本人尋問の結果(但し、右証拠中後記措信しない部分は除く)及び弁論の全趣旨を総合すると、前記認定のごとき被告におけるキヤデイーの相対的高賃金については従前から被告役員やクラブ理事の間で議論がされてきてはいたものの、被告の役員らは、従業員の退職等の自然減による人件費負担の軽減と賃金のベースアツプ等をできるだけ低く抑えることで対応できるといつた程度の認識を有していたにとどまり、キヤデイー制度を廃止しなければ企業の存立もおぼつかないといつた危機意識、少くとも、これが昭和五八年一一月二日の被告とクラブの合同役員会で議論される以前には全く持ち合わせていなかつたこと、その結果被告が本件整理解雇に至るまでになした経営改善策として挙げ得るものは、前記の新規職員採用の差し控え、賃上げ幅や一時金支給率の抑制のほかは、利用料金の値上げが挙げ得る程度であり、しかもこれらの対策といつても、被告において本件整理解雇以前に賃上げ交渉等の過程で賃上げ等につきゼロ回答したことはなかつたことや、料金値上げについても昭和五〇年から昭和五七年まで被告の代表取締役であつた宗村南男自身それほどの値上げはしなかつた旨自認しているなどさほど効果を有するものではなかつたこと、また被告が経営危機のため役員報酬を支払つていない旨主張する点も、これが支払われずにいるのは、役員が名誉職と認識されている故であつて被告の経営状態とは関連のないこと、更に被告が強く主張するゴルフコースの荒廃をきたす程のコース管理費等の支出抑制も実際には行なわれておらず、むしろコースコンデイシヨンの良好さを会員に自負できる程に十分なコース管理を実施してきたこと、のみならず、いまだ多年の残存耐用年数があるにもかかわらず、昭和五五年にクラブハウスの建て替えを行ない(しかも三度目の建て替えである)、また、本件整理解雇の直前にも、ゴルフ場利用者に対するサービスの向上と原告らの一斉出退勤闘争に対抗する手段として、六、〇〇〇万円もの多額の経費を要する電磁式カートの導入を、その時点ではキヤデイー制度の廃止を何ら考慮することなく決定し、これを実施し、更には、本件整理解雇後ではあるが、昭和五九年一〇月になつて一律三〇〇万円の特別退職金を付加して支払うとして原告らに対し希望退職の募集をしたことなどが認められるのであつて、これらはおよそ主張の経営危機とは相反する経営態度と言うほかない。

なお、前掲甲第八一、第八二号証、第三五九号証、乙第二、第三号証、第一七号証、第二〇号証中右認定に反する部分はにわかに措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(七) 次にキヤデイー制度廃止に至つた経緯についてみるに、前掲甲第八一、第八二号証、第二三五号証、第二三八号証、第三五八号証、第三六四号証、乙第二、第三号証、第一五号証、第一九号証、成立に争いのない甲第三六三号証、証人藤野好男の証言(第一回)及び弁論の全趣旨を総合すると、キヤデイー制度廃止は、昭和五八年一一月二日の被告の取締役とクラブの理事による合同役員会の席上、同年九月期の仮決算についての審議途中において、同年度も約三、六〇〇万円の欠損計上が予想されることが報告されたことがきつかけとなつて、突然にかつ誰からとなしにキヤデイー制度廃止の意見が出され、検討の結果赤字から脱却するにはキヤデイー制度を廃止するしかないとの意見が多数を占めたが、同時にその廃止には会員総会の決定を経ることを要するとの役員らの一致した意見により臨時会員総会の招集を決定し、これにより招集された(但し、その招集通知には議題として「経営合理化の件」とのみしか記載されていなかつた。)昭和五八年一一月一二日の臨時会員総会においてキヤデイー制度廃止を決定する決議がなされ、これを受けた被告は翌一三日原告らの所属する労働組合に対し、キヤデイー制度廃止を理由としてキヤデイーを全員解雇する旨口頭で通告したことが認められる。

右認定の経緯のとおり、キヤデイー制度の廃止の決定は事前の調査や検討は全くないままに、前記合同役員会の場で電撃的ともいえる形で決定され、これが極めて短期間に会員総会の決議、組合への通告等経て実施に至つたことが明らかである。

しかし、キヤデイー制度の廃止は、単に競技運営上の問題にとどまらない被告の経営の根幹にかかわる大問題であり、とりわけ前掲甲第二三五号証、第二三七号証、乙第一五号証、成立に争いのない乙第二七、第二八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第二〇一号証、証人金田二郎の証言及び弁論の全趣旨によれば、我が国ではノーキヤデイー制ゴルフ場はまだまだ少数で、かつこれに対するプレイヤーの理解も十分でないことが認められる現状では、その採用の決定は慎重な調査検討がなされたうえでなされるのが当然であるはずである。即ち、ノーキヤデイー制への移行に伴なつて生ずることが予想される経営上及び競技運営上の主要な問題点については少くとも他のゴルフ場の例をも参考にするなどして調査検討をなし、その結果経営上も競技運営上も支障なく、かつ経営合理化上必要不可欠であると判断し得て始めて、これが廃止を決定し得るものであるし、従つて経営者としては当然に右の程度の調査をなすことが要請されているというべきである。

そうすると、事前に右のような調査検討が全くなされておらず、従つてその検討資料も整わないまま、かつその後の調査検討も尽くさないままいかにも唐突にキヤデイー制度の廃止が決定された本件においては、その決定に至る経緯からみてもそのキヤデイー制度廃止の決定が、被告の事業上の必要に基づいてなされた合理的判断とは認めがたいと言わざるを得ない。

(八) 以上の認定によれば、被告の収支はなるほど形式的には赤字であり、かつその一つの要因としてキヤデイー従業員に対する相対的高賃金を挙げ得ることは事実としても、それのみが原因ではないばかりか、形式的にはクラブの収入として会計処理がなされているが実質的には被告に帰属するとみられる収入があり、これを考慮してその収支の実質をみると、被告は大幅な黒字であつて、被告が主張するような経営危機は全く存せず、従つてその危機回避のためキヤデイー制度を廃止しなければならない事業上の必要性も存しないことが明らかである。

(九) もとより企業は、当面の経営危機は存しなくとも、企業の維持、発展を図り、併わせて将来の経営危機に備えるため、その経営者の責任と裁量において、経営合理化ないし費用節減の手段として、オートメーシヨン機械等を導入するなどし、その結果生じた余剰人員を整理解雇することも、全く許されないわけではない。

しかし、右のようないわゆる予防型の整理解雇の場合は、企業が自己規制として定めた就業規則中の解雇事由(被告の就業規則では「やむを得ない経営上の事由」)の有無の判断は、目的と手段・結果との均衡の観点から、経営危機が継続、現存する場合の整理解雇、いわゆる緊急避難ないし防衛型の整理解雇に比して、より慎重、厳格になさるべきであろう。

これを本件について見るに、被告にその主張するような経営危機が全く存しなかつたことは前示のとおりであつて、本件キヤデイー全員の整理解雇は、電磁式カートの導入が決定・実施されていたことから、キヤデイー人件費の高負担に危機感を抱いた被告において、キヤデイー制度を廃止し、これによつて生じた余剰人員を整理し、人件費の節減を図つたものと言わざるを得ない。しかして、すでに前示(一)項から(八)項で認定判断したように、被告の経営収支の実質は大巾な黒字であり、他方キヤデイー制度はゴルフ場経営と不可分一体の関係にあり、その廃止は、ゴルフ場の品格の低下やゴルフ場利用者の減少を招きかねず、いわばゴルフ場経営の根幹にかかわる問題であり、加えてキヤデイー制廃止による解雇は、被解雇者であるキヤデイーにとつて、生活の基盤の破壊をもたらすものであるのに、被告は、これといつた事前の調査、検討もなしに、たまたまゴルフ場利用者へのサービス向上等のために電磁式カートを導入していたことから、短絡的にキヤデイー制度を廃止し、即キヤデイーを解雇、しかも全員を解雇したものであつて、右キヤデイー制度の廃止、キヤデイー全員解雇は、いかにも唐突で説得力に欠け、費用節減という目的に比して明らかに均衡を失するというべきである。

とすれば、本件整理解雇は、就業規則二七条四号の「やむを得ない経営上の事由」に該当しない違法無効な解雇というほかなく、被告の抗弁一は失当である。

三  次に被告の抗弁二につき検討する。

1  原告市川清子、同曽我きく子、同大橋清子、同市川孝子、同平田すみゑの五名がいずれも満四七歳の定年に達した後再雇傭された臨時キヤデイーであること、原告市川清子は昭和五九年三月一〇日に、同曽我きく子は同年七月二〇日に、同大橋清子は同年八月三一日に、同市川孝子は同年九月三〇日に、同平田すみゑは同年一〇月一〇日に、それぞれ満五五歳に達したこと、及び従前臨時キヤデイーの再雇傭期限が満五五歳に達したときであつたことは当事者間に争いがない。

2  原告らは、再抗弁三において右再雇傭期間が延長された旨主張する。

そこで、右再抗弁につき判断するに、被告が昭和五七年三月四日原告らの所属する組合との間に、

(一) 女子雇傭保障について現行通り満五七歳とする。但し、コース管理で就業している者は満五八歳迄雇傭する。

(二) 賃金、労働条件は、現行通りとする。

(三) 実施期日 昭和五七年三月二日

との条項の書面による協約を締結したことは当事者間に争いがない。

原告らは右協約によつて、原告らキヤデイー従業員を含む女子職員につき満五七歳に達するまでは現行の職種のまま(即ち原告らキヤデイーはキヤデイーのまま)再雇傭され、その後満五七歳に達してから満五八歳に達するまではコース管理として再雇傭されることが協約され、従つて原告らの再雇傭期限は満五五歳から満五八歳にまで延長されたとし、前掲甲第二三一号証、第二三八号証、第二六七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第九三号証、第二八七ないし第二八九号証、第二九一ないし第三一九号証、第三二一ないし第三三四号証、原告森弘子本人尋問の結果中にはこれに沿う部分が存する。

しかし、右書証等はにわかに措信できず、かえつて、右協約の文言、前掲甲第三五七号証、乙第三五号証、成立に争いのない甲第二七五ないし第二八二号証、第三四八号証、証人宗村南男の証言及び弁論の全趣旨によれば、右協約はコース管理に従事する職員の再雇傭期限を満五七歳から満五八歳まで延長する旨の協約であつて、キヤデイー業務に従事する職員の再雇傭期限を延長する旨の協約ではないことが明らかである。

従つて原告らの右再抗弁は理由がなく、前記五名の原告らに関しては、いずれも、前記各期日に満五五歳に達したことにより再雇傭期限が到来し、被告との労働関係は終了したものである。

四  以上によれば、被告の従業員たる地位の確認を求める原告らの請求は、原告市川清子、同曽我きく子、同大橋清子、同市川孝子、同平田すみゑに関しては失当として棄却を免れないが、その余の原告らに関しては正当としてこれを認容すべきである。

第二賃金等請求について

一  キヤデイー制度廃止を理由とする本件整理解雇が、就業規則の解雇事由に該当せず無効であることは、第一で認定のとおりであるから、原告らは昭和五八年一二月三一日以降も、被告の従業員として民法五三六条二項に基づきその労働の対価として支払われるべき賃金及び一時金(夏期、年末)を請求し得る(但し、前記第一で認定のとおり、原告市川清子、同曽我きく子、同大橋清子、同市川孝子、同平田すみゑの五名については、その後満五五歳に達したことにより被告との雇傭関係が終了したので、右五名が請求し得る賃金等は右終了時点までである。)こととなる。

なお、被告はこの点に関し、前記請求原因に対する反論のとおり、被告は労基法二六条により、平均賃金の六〇パーセントの休業手当を支払えば足る旨主張するが、労基法二六条の規定は民法五三六条二項の規定の適用を排斥するものとは解されないのみならず、原告らの不就労は、被告の違法なキヤデイー制度廃止を理由とする解雇によりもたらされたものとして、民法五三六条二項の帰責事由が被告にあることは明らかであるから、右被告の主張は採用できない。

二  賃金につき

1  被告の賃金支払期日が毎月二八日で、前月二一日から当月二〇日までの一か月分が支払われることは当事者間に争いがない。

2  前掲甲第三四三号証、乙第四号証によれば、野呂テル子を除くその余の原告らが被告から支払を受けた昭和五八年一〇月分、一一月分、一二月分の賃金はそれぞれ別紙(一)賃金債権一覧表A、B、C欄に各記載のとおりであつたことが認められる。

3  別紙(一)賃金債権一覧表番号23ないし37の原告らは定年が延長となつたにかかわらず不当に賃金ダウンされ、右三か月分の賃金につき同表D欄記載の金額が未払となつている旨主張する。

そこで検討するに、前掲甲第七三号証、第七五号証、第九三号証、第九七、第九八号証、第一〇五号証、第一〇七号証、第一一〇号証、第一二四号証、第一三二号証、第一三四号証、第一三七号証、第一四六号証、第二三〇号証、第二三一号証、第二三五号証、第二三八号証、第二六七号証、第二八七ないし第二八九号証、第二九一ないし第二九六号証、第二九九ないし第三〇九号証、第三一一、第三一二号証、第三一四ないし第三一九号証、第三二一ないし第三二六号証、第三二八ないし第三三四号証、第三四八号証、第三五七号証、乙第三五号証、原本の存在と成立につき争いのない甲第五八、第五九号証、成立に争いのない甲第六三、第六四号証、第六七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第七二号証、第九四、第九五号証、第一一四号証、第一一七号証、第一二二号証、第一二七、第一二八号証、第一四七、第一四八号証、第一五〇号証、第一五二号証、第三二〇号証、証人宗村南男の証言、原告森弘子本人尋問の結果(但し、右証拠中後記措信しない部分を除く)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 昭和五六年一〇月一六日の被告と原告らの所属する労働組合との団体交渉の席上において、組合の分会長であつた原告森弘子を始めとする組合執行委員と被告の代表取締役宗村南男(当時)との間で、キヤデイーを含む全女子従業員の定年を昭和五六年一一月一日をもつて満四七歳から満五五歳に延長する、但し定年延長後の退職金算定方法及び額については今後労使間で協議のうえ決定する旨の口頭による合意ができたこと。

(二) 右の結果、昭和五六年一一月一日以降昭和五八年九月末に至るまでは、原告服部加寿子を始め右の間に満四七歳に達したキヤデイー全員が満四七歳に達した後も正キヤデイーとして扱われ、従つて退職金の支払を受けることもなく、またラウンド賃金をダウンされる(定年後の再雇傭による臨時キヤデイーはラウンド賃金がダウンされる)こともなく就労してきたこと。

(三) ところが被告は昭和五八年一〇月に入るや、キヤデイーの定年は満四七歳であるとして、前記原告服部加寿子らのキヤデイーに対し退職金の受領を催告するとともに、昭和五八年一〇月二一日以降ラウンド賃金を臨時キヤデイーの一ラウンド九〇〇円として一ラウンド一バツグ当り一〇〇円賃金ダウンさせる旨を通告し、原告服部加寿子らが退職金の受領を拒否するやこれを供託するとともに右賃金ダウンを実行し、その後満四七歳に達したキヤデイーらに対しても同様これを実行したこと。

(四) 右の結果ラウンド賃金をダウンさせられたのは、別紙(一)賃金債権一覧表番号23ないし37の原告らで、昭和五八年一〇月分、一一月分、一二月分の三か月間に賃金ダウンさせられた金額合計は同表D欄の金額となること。

以上の事実が認められ、前掲甲第二三五号証、第三四八号証、第三五七号証、乙第三五号証、証人宗村南男の証言中右認定と異なる部分はたやすく措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そして、右事実を総合して判断すれば、昭和五六年一〇月一六日の労使間の合意は、書面に作成されておらず労働協約としての効力を生じ得ないものの、原告服部加寿子を始めとして右同日以降満四七歳に達した原告らのいずれもが、定年後の臨時キヤデイーとしてではなく、正キヤデイーとして扱われてきているのであつて、すでに右定年延長の適用を受ける原告らと被告との間においては定年を満五五歳とすることがその間の労働契約の内容の一部となつていたもの(黙示の合意の成立)と解するのが相当である。

そうすると、別紙(一)賃金債権一覧表番号23ないし37の原告らは被告との労働契約上その定年が満五五歳に達するまで延長されたもので、ラウンド賃金をダウンされるいわれはなく、その主張のとおりの金額が未払であることが認められる。

4  以上の結果に基づき、別紙(一)賃金債権一覧表番号23ないし37の原告らについてはその未払賃金分をも考慮して前記三か月の平均賃金を算出した結果は同表F欄に記載のとおりであり、かつこれに基づき、昭和五八年一二月三一日から昭和五九年一月二〇日までの昭和五九年一月分賃金を日割計算した結果は同表G欄のとおりである。

従つて、野呂テル子を除くその余の原告らは、右平均賃金に基づき算出された同表G欄の金額をもつて、昭和五九年一月分の賃金として、同表F欄の金額をもつて同年二月分以降の賃金として、その各支払を被告に求め得ると認めるのが相当である。

なお、すでに認定のとおり再雇傭期限の到来した五名の原告が支払を求め得る賃金合計は左記のとおりである。

(一) 原告市川清子 金四五万一、八八〇円

(131,229+193,727+193,727×19/29=451,880)

(1月分) (2月分) (3月分)

(二) 原告曽我きく子 金一二四万八、一二九円

(126,609+186,920×6=1,248,129)

(1月分) (2月~7月分)

(三) 原告大橋清子 金一七三万七、九四〇円

(146,559+216,372×7+216,372×11/31=1,737,940)

(1月分) (2月~8月分) (9月分)

(四) 原告市川孝子 金一六三万八、三九〇円

(123,165+181,827×8+181,827×10/30=1,638,390)

(1月分) (2月~9月分) (10月分)

(五) 原告平田すみゑ 金一七八万〇、四五六円

(129,066+190,545×8+190,545×20/30=1,780,456)

(1月分) (2月~9月分) (10月分)

三  一時金につき

1  被告が原告らキヤデイーを除く被告従業員に対し、昭和五九年一〇月一二日夏期一時金として基本給の一・五か月分を、同年一二月二一日年末一時金として基本給の一・六か月分をそれぞれ支給したことは当事者間に争いがない。

2  被告は原告らには一時金の支払請求権はない旨反論(請求原因に対する反論2参照)するが、右当事者間に争いのない事実のとおり、被告は、被告が解雇したと主張する原告らを除いた全従業員に夏期及び年末の一時金をすでに支給しているのであるから、右解雇が無効で被告の従業員であると認められる原告らに他の従業員と同様に右一時金を支払うべき義務を負うのは当然と言うべきである。

なお、右一時金の支払基準日等は本件全証拠によるも定かではないが、通常夏期及び年末の二回に分けて一時金が支給される場合には、六月及び一二月に在職する従業員に支給されるのが通例と認められるから、既に再雇傭期間が到来して雇傭関係が終了した五名の原告のうち、原告市川清子は夏期、年末一時金共につき、その余の原告曽我きく子、同大橋清子、同市川孝子、同平田すみゑは年末一時金につき支払請求権を有しないものと認めるのが相当である。

3  そこで一時金の算出方法であるが、昭和五八年度年末一時金の支給率が正キヤデイーにつき一般職員比七五パーセント、臨時キヤデイーにつき正キヤデイーの七五パーセントであつたこと、正キヤデイー及び臨時キヤデイーの総支給額算出の算式及び一時金勤続年数分の算出方法がいずれも原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実及び弁論の全趣旨によればその一時金の算出は原告ら主張のとおりの方法により算出すべきと認められる(なお、正キヤデイーと臨時キヤデイーの区別に関しても、前記で認定のとおりキヤデイーの定年が満五五歳に延長されたことから、原告ら主張のとおりであつて、別紙(二)一時金計算表番号23ないし53の原告三一名が正キヤデイーであり、その余が臨時キヤデイーである。但し臨時キヤデイーに関しては、原告ら主張には原告市川清子ら五名も含まれているのでこれを控除し、夏期一時金の支給を受けるのは二一名、年末一時金の支給を受けるのは一七名として算出することとなる。また被告は一時金の算出につき欠勤控除を主張するが、就労を拒否されている原告らに対し欠勤控除を考慮する余地はない。)。

4  右算定方法に基づき夏期及び年末一時金の額を算出した結果は、別紙(二)一時金計算表番号23ないし53の正キヤデイーである原告らに関しては同表記載のとおりであり、同表番号1ないし22の臨時キヤデイーである原告らに関しては別紙(八)臨時キヤデイー一時金計算表記載のとおりである。

従つて原告らは、右同額を被告に対し請求し得るものである。

四  以上によれば、野呂テル子を除くその余の原告らの昭和五九年一月分以降の賃金の支払を求める請求中別紙(一)賃金債権一覧表番号1、8ないし53の原告らの請求はすべて理由があるが、原告市川清子については昭和五九年三月一〇日までの賃金四五万一、八八〇円、同曽我きく子については同年七月二〇日までの賃金一二四万八、一二九円、同大橋清子については同年八月三一日までの賃金一七三万七、九四〇円、同市川孝子については同年九月三〇日までの賃金一六三万八、三九〇円、同平田すみゑについては同年一〇月一〇日までの賃金一七八万〇、四五六円の各支払を求める限度でのみ理由があり、その余は失当である。

また一時金とこれに附帯の昭和五九年一二月二二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の請求に関しては、原告市川清子の請求及び原告曽我きく子、同大橋清子、同市川孝子、同平田すみゑの各年末一時金の請求はいずれも失当として棄却を免れないが、その余はいずれも正当として認容すべき(但し別紙一時金計算表番号1、3、8ないし22の原告らの年末一時金の請求は、同表「年末(2)」欄の金額の限度で)である。

第三慰藉料等請求について

一  被告のした本件整理解雇が就業規則の解雇事由に該当しないにかかわらずなされた違法なものであり、かつ被告に少くとも過失の認められることは前記第一での認定から明らかである。

そうすると原告らは右解雇の無効を主張して賃金債権等の履行を求め得るはもとより、なお損害があるときはこれを不法行為として請求することができると認められる。

二  原告らは右損害としてます慰藉料を請求するが、違法解雇による精神的苦痛は、その解雇の無効確認、賃金債権の履行を得ることによつて慰藉されるのが通常であるうえ、原告らは本訴提起に先立ち本件整理解雇の効力停止の仮処分決定を得ていること等をも考慮すれば、原告らにはなお慰藉されなければならない精神的損害は認められないと言うべきである。

三  原告らが本件整理解雇の無効確認等を得るため、弁護士に委任して本訴提起やこれに先立つ仮処分申請をなさなければならなかつたことは、当裁判所に顕著な事実であり、本件事案の内容、その請求認容の範囲等に照らし、原告らが被告に対し損害として請求し得る弁護士費用は、原告市川清子、同曽我きく子、同大橋清子、同市川孝子、同平田すみゑはそれぞれ金五万円、その余の原告らはそれぞれ金一〇万円と認めるのが相当である。

第四まとめ、

一  以上のとおりで原告らの請求中

1  別紙賃金債権一覧表1、8ないし53の原告らに関してはいずれも地位確認請求、昭和五九年一月分以降の賃金請求、夏期及び年末(但し、同表1、8ないし22の原告らについては別紙(二)一時金計算表「年末(2)」欄の金額の限度で)一時金とこれに附帯の遅延損害金請求及び違法解雇による損害賠償請求のうち金一〇万円(弁護士費用)を認容し、

2  原告野呂テル子に関しては、地位確認請求、夏期及び年末(但し別紙(二)一時金計算表「年末(2)」欄の金額の限度で)一時金とこれに附帯の遅延損害金請求及び違法解雇による損害賠償請求のうち金一〇万円(弁護士費用)を認容し、

3  原告市川清子に関しては昭和五九年一月分以降の賃金請求中金四五万一、八八〇円と違法解雇による損害賠償請求のうち金五万円(弁護士費用)を認容し、

4  原告曽我きく子に関しては、昭和五九年一月分以降の賃金請求中金一二四万八、一二九円、夏期一時金とこれに附帯の遅延損害金請求及び違法解雇による損害賠償請求のうち金五万円(弁護士費用)を認容し、

5  原告大橋清子に関しては、昭和五九年一月分以降の賃金請求中金一七三万七、九四〇円、夏期一時金とこれに附帯の遅延損害金請求及び違法解雇による損害賠償請求のうち金五万円(弁護士費用)を認容し、

6  原告市川孝子に関しては、昭和五九年一月分以降の賃金請求中金一六三万八、三九〇円、夏期一時金とこれに附帯の遅延損害金請求及び違法解雇による損害賠償請求のうち金五万円(弁護士費用)を認容し、

7  原告平田すみゑに関しては、昭和五九年一月分以降の賃金請求中金一七八万〇、四五六円、夏期一時金とこれに附帯の遅延損害金請求及び違法解雇による損害賠償請求中金五万円(弁護士費用)を認容し、

その余はいずれもこれを棄却することとする。

二  訴訟費用の負担については民訴法八九条、九二条、九三条一項を、仮執行の宣言については、同法一九六条一項を、各適用する。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 油田弘佑 清水正美 上田昭典)

別紙(一)~(八)〈省略〉

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